「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第74話
自キャラ別行動編(仮)
<迫る脅威>
草原を力ない足取りでとぼとぼと歩く二人のケンタウロス。(何度も言うとおり一人はケンタウレだが)
いつもは光り輝く金と白金の鬣が今はくすんで見えるほど、二人は意気消沈しながら帰路についていた。
「ああ、なんと報告したものか。気が重い」
「私もよ。本当ならダオ様のお姿を拝見できて感動できる場面なのに」
一体誰がこの話を聞いて信用すると言うのだ?
上位精霊をまるで小間使いのように使うものがこの世に存在するなんて話を。
「エルフだったな」
「ええ、エルフだったわね」
最初は遠目だったのと、人族の城だからと言う事で人だと思い込んでいたが、改めてよく見てみればダオの上で指示を出していたとがった耳の子供、エルフの少女だった。
「でも、エルフだからと言ってなんだというのだ?」
「そうね、エルフでも人でもあまり変わらないものね」
確かにエルフは人よりも魔法を使うのに長けている。
だが別に神に近いほどの魔法を使えるわけではないし、上位精霊を呼び出す事ができるほどの強大な魔力を持つわけではないのだ。
ところがあの少女は呼び出すだけでなく従わせ、働かせていた。
それも弱いドラゴンなら軽く一蹴してしまうほどの力を持つ上位精霊をまるで悪戯したペットをしつけるかのように、頭をぺしぺしと叩いて叱りながらだ。
そしてその後に目の前で起こった光景は、未だにこの瞳に焼きついて離れない。
あんな天変地異の如き事が実際に目の前で起こったと言うのは未だ信じられないが、実際にこの目で見てしまったのだから信じるしかないのだろう。
「神様はエルフと同じ姿をしている・・・なんて事は無いよなぁ」
「私も神様を見たことは無いから解らないけど、多分そんな事は無いと思うわよ。あるとしたら精霊の女王が気まぐれでエルフの少女の姿をしていたと言うくらいだけど、そもそも精霊に王が居るなんて話、聞いたことも無いから多分それも無いわ」
精霊の女王か。
そんなのが居たら確かにダオでも従わせることができるだろう。
そんなのが居るとも思えないが。
「あの少女は一体何者なんだろうな」
「解らないけど、あれを刺激するのだけは避けた方がいいと思うわよ。私たちでは中位精霊相手でも勝つ事は難しいのだから、上位精霊のそのまた上の存在と争うなんて考えただけでも体が震えてくるわ」
そうだな。
俺だってそんな事になったら尻尾を巻いて逃げ出すよ。
「「はぁ・・・」」
二人はとぼとぼと歩く。
なるべく報告するのを先送りにしたいと思いながら。
■
いくらゆっくり歩いても、進んでいるのだからいつかは着いてしまう。
結局私たちは予定をかなりオーバーはしたが無事ミラダの族の部落にたどり着き、今は残っていた二人の族長、チェストミールとテオドルに自分が見たものを見た通り話していた。
「はぁ? 大穴が一瞬で埋まり、その後周りが盛り上がって岩山ができて、その真ん中がまた沈んで壁のような物ができただぁ? フェルディナントよ、おぬしは一体何を言っているのじゃ?」
「いきなり山ができるわけが無いだろう」
何を寝ぼけた事を言っているのだ? とでも言いたげな目で私を見る二人。
ほらな。
信じられるわけが無いのは私も解っていた。
話をしている私でさえ、あの光景は未だ信じられないのだから。
「フェルディナントは嘘は言っていないわよ。私も同じ光景をこの目で見たのですもの。それにね、その場には上位精霊であるダオ様をこき使っているエルフの少女が居たわ」
「オフェリア、お前も頭がおかしくなったのか?」
「神の如き力を持つという上位精霊様がこの世に顕現したと言う話だけでも信じられないと言うのに、それをこき使う者が居たじゃと? たとえばそれが古龍だと言うのならばワシもまだ納得もしよう。だがエルフの少女じゃと? 話にならんわい」
私の話を肯定しようとしたのか、それとも何を話しても信じないだろうから真実だけを淡々と報告しようと考えたのか、オフェリアも自分が見たものを二人に話したのだが彼女の言葉も私のものと同様まるで信じてはもらえなかった。
「ふむ。もしかすると二人は人族の魔法によって幻覚を見せられたのかも知れんな。しかし幻覚を見せるにしても、なんと荒唐無稽な」
「確かめる為に、もう一度偵察を、」
「それはやめて置け」
テオドルの言葉を遮るように、私はもう一度偵察を出すと言う案を止めた。
それはそうだろう。
あんな力を持つものにわざわざ近づいて危険を冒すべきではないからな。
「私も止めておいた方がいいと思う。あれが何なのかは解らないけど、もし敵に回ったりしたら私たちは滅ぼされるわよ。迂闊に近づかない方がいいと思うわ」
「しかし、おぬしらの話が荒唐無稽すぎてそのまま放置するわけにも行かんのじゃ」
その気持ちは解る。
だが、危険を避けるためにわざわざ危険を冒すことのほうが本末転倒だろう。
そんな私の考えをよそに、チェストミールの考えに対してテオドルが賛同の声を上げる。
「俺も偵察には行くべきだと思う」
「ですが、テオドル」
私と同意見のオフェリアがテオドルの提案を止めようとしたのだが、彼はその黒い瞳を彼女に向け、片手を挙げてその言葉を制す。
そして自分の言葉を真剣に聞いてもらおうと考えたのか、彼は黒い巨体をわざわざ動かし、オフェリアの方に体を向けて話し出した。
「お前たちの言う事が本当だとしたら、やはり偵察には行くべきだ」
・
・・・
・・・・・・
「それだけか!」
いかん、思わず突っ込みを入れてしまった。
しかし、テオドルの言葉があまりに足らないと考えたのは私だけではなかったようで、チェストミールも自慢の長いあごひげをなでながら苦笑を浮かべてテオドルに声をかけた。
「テオドルよ、おぬしの口数が少ないのは知ってはおるが、流石にそれだけではさっぱり意味が解らん。もう少し詳しく考えを話すのじゃ」
チェストミールの言葉にテオドルはなぜ解らない? とでも言いたそうな表情を一瞬浮かべたが、解らないのならば仕方が無いかとばかりにその重い口を開いた。
「そうか・・・。脅威が存在するのならその脅威がどれほど危険なのか、そしてそれがこちらに向くかどうかを確かめなければならない。お前たちの報告では、脅威があるのは解ったがそれがまったく解らないからな。もう一度偵察には行くべきだろう」
なるほど、確かに私たちは目の前の光景に圧倒されてその点をまったく考えていなかったな。
「確かにその通りだ。しかし、相手は上位精霊以上の力を持つものだと言う事だけはちゃんと頭に入れて、けして敵対行動は取らない事。それを偵察に行く者にしっかりと言い含めなければならないぞ」
偵察に行くとしたらこれだけは肝に銘じなければいけないと注意喚起のつもりで語る私に、テオドルは不思議そうな目を向けた。
「何を言っているんだ? 偵察に行くのはお前たちだぞ」
はっ?
「どういう事だ?」
「その脅威を見たのはお前たちなのだろう。ならばどこまでやったら危険か他の者に説明するより、お前たちがもう一度行く方が間違いが無いだろう?」
「確かにそのとうりじゃな」
テオドルの言葉にチェストミールは笑い、私とオフェリアは固まったのだった。
結局この後、私たちはもう一度あの城に訪れた。
前回行った時はなかった、壁に付けられた大きな鉄の扉とその横にたたずむ巨大な石像に驚き、その石像が動き出して扉を開けたのを見てさらに驚かされた。
ただ2〜3日外から見た感じでは、そこに住むものたちは軍備を整える様子は無く、ただそこで生活をしているだけであると言う事が解って私とオフェリアはほっと胸をなでおろして帰路に着いたのだった。
■
そして時は今に戻る
「族長、あの者たちが湖に進路を変えました」
「なに!?」
ケンタウロス4部族の内、一番大きな部族であるミラダの族長であるチェストミールはあせっていた。
フェルディナント達の報告を聞いて、話にあった人族の城は我々に対して敵対する意思はないと考え安心していたのじゃが、そんなワシの所に部族の若い者からある日、報告があった。
その城から我々の縄張りである草原になにやら巨大な力を持った獣に乗ったエルフの少女が向かっていると言うのじゃ。
そしてその獣の姿を詳しく聞いてみたところ大きさこそ違うものの、オフェリアから聞かされていたダオ様の姿と酷似していたのじゃよ。
そこでワシは考えた。
もしや、そのエルフの少女と言うのはフェルディナントたちからの報告にあった”あの”エルフの少女なのではないかと。
ならばこれは一大事である。
「けして手を出すでないぞ。ただ、目は離すな。相手に気取られぬよう側面後方、その者たちの動向が解る限界まで離れた所から見張るのじゃ。解ったな」
「はい!」
我々ケンタウロスは狩りで生活する為にかなり先まで見通す目を持っている。
偵察に向かわせる者はその中でも特に遠目が効く者を選んだから、たとえそのエルフの少女が魔法で周りを探ったとて見つかる事はないじゃろう。
「しかし、いきなりこちらの縄張りに侵入してくるとは。何が目的なのじゃろうか?」
ワシは考える時のいつもの癖で、長く白い顎髭をなでながら考える。
フェルディナントの話ではあやつらはワシらに危害を加える気は無いであろうと言う事じゃった。
ならばワシらとは関係の無い、何か別の目的があるのじゃろうか?
とにかくじゃ、我々の縄張りをただ通り過ぎるだけならば問題は無い。
手を出さなければ、穏便に事が済むことじゃろて。
この時はまだそう考えておった。
ところがじゃ、
「族長、エルフの少女の下から妖精のようなものが飛び立ち、なにやら周りを探っているようだと言う報告がありました」
「なに!?」
どういう事じゃ? この場でそんなことをしたということはやはり目的はワシらなのか?
いくら考えても解らないものは解らない。
危険が無いと言ったフェルディナントの言葉を疑うわけではないのじゃが実際にかの城の、それも一番力を持つと思われるエルフの少女が現れてこの辺りを探っているとなれば、最悪の事態も想定しておくべきなのではないじゃろうか?
「とにかくじゃ、他の3部族の族長に連絡じゃ。緊急事態かもしれんから、すぐにここに来るように伝えるのじゃ」
3人が来るまで事態が動かないことを祈っていたワシじゃったが、残念ながらその願いは神に聞き入れては貰えなんだ。
「こちらに向かっていると言うのか」
「はい。先程も申し上げましたとおり正確にはこの部落ではなく湖の方へですが、先程の妖精がなにやら調べた後、方向を変えたようです」
この部落は湖の近くに位置しているのだから、それはこちらに向かっているのと同意語ではないか! そう考えて叱り飛ばしたい衝動に駆られたのじゃが、それをした所で何の意味も無いじゃろう。
「わざわざ進路を変えたのだから目的の物を見つけたと言う事じゃろうな。水が目的とは考えられないじゃろうから、やはりワシらを探していると言う事なのじゃろう」
話に聞くほどの強者が相手じゃ。
もし戦いになるのなら、種は残さねばならんから若い者は逃がさねばならんな。
「ワシの首一つで済むといいのじゃが」
最悪な場面を想定し、もしもの時は何とかこの老体一つで許してもらえないだろうかと考えるチェストミールだった。
あとがきのような、言い訳のようなもの
すみません、かなり短いです。(4000文字強かな)
実は今週は色々と忙しく、もしかしたら落とすかもしれないと言う状況だったので御許しください。
また、もしかすると来週は本当に落ちるかもしれません。
それくらい今週と来週は色々と予定が立て込んでいるのです。
と言う訳で、もし来週更新できなかったときは御許しください。
さて、初めて2週連続で自キャラが出ない話が続きました。
本当ならあやめが部落を見つけるところまで書く筈だったのですが、どうにも時間が取れなかったので。
おかげで話が進まないこと進まないこと。
別に話を引っ張りたくてやっているわけではないと言う事だけはご理解していただけるとありがたいです
チェストミールは苦労を背負い込むタイプです。
それに若者を助ける為なら自分の命さえ差し出しても惜しくないと考えるタイプでもあります。
まぁここまで読まれている方は解っていると思いますが、取り越し苦労になるんですけどねw